中国経済が抱え込む歪みは相当に大きい

 最近、中国経済の低迷の影響について懸念する声を産業界の方から聞くことがある。中国の消費や投資が低調で、販売が低迷し始めたというのだ。たまたま数人からそのような話を聞いただけであり、包括的な調査をしたわけではないので、それほど深刻に受け止めるべきかどうかは分からない。

 

 ただ、30年近く10%前後の成長を続けてきた中国経済が減速すれば、日本に及ぶその影響がけっして小さくないことは覚悟しておく必要がある。アジア経済は一体化しているので、中国と直接取引がないような分野にも影響が及ぶかもしれない。

 

 たとえば、東南アジア諸国はこの10年ほど、中国に対して輸出を急速に拡大させてきた。中国経済の低迷が東南アジア諸国に及ぼす影響は、相当な規模に及ぶものと考えられる。その東南アジア諸国と緊密な経済関係にある日本も当然影響を受けることになる。

 

 日本から中国への輸出の多くは部品や設備などである。そうした製品の生産やその下請けなどの形で多くの中小企業も関わっている。中国経済低迷の影響は地域の多くの製造者に及ぶことになる。

 

 中国は共産党独裁の国である。政府は経済にも強い支配力を持っている。かつての東南アジアで起きたように、一夜にして経済の様相が大きく変わるようなバブル崩壊や通貨危機というようなことが起きることは考えにくい。中国経済のリスクは、成長率がなし崩し的に低下しておさえがきかなくなる状態であるだろう。

 

 中国の低成長への転換は、長く続いた高成長の結果でもある。中国の一人あたりのGDPは、タイのような国を超える水準になってしまった。ある経営者が言っていたが、彼のフィリピンの工場の人件費は、中国の工場の10分の1程度であるという。こうした高賃金は成長の結果でもあるが、それで中国のコスト競争力が低下している。また、世界第二位の経済規模にまで成長した結果、これ以上に輸出を拡大し続けて成長を持続することも難しくなっている。世界の市場はそれほど大きくないからだ。

 

 こうした変化もあったのだろう、2008年のリーマン・ショックの後、中国は大きな転換を図った。四兆元という巨額の資金を投じて、内需への転換を加速化しようとしたのだ。中国の内需転換とは、重化学工業への設備投資であり、インフラの整備である。こうした投資が功を奏して、リーマン・ショックからもっとも早く回復したのは中国であった。

 

 内需への転換が悪いとは思わないが、投資にあまりに偏った経済成長は中国経済にとって好ましくないものであった。そもそも投資を続けることで成長を維持することは難しい。鉄鋼でも化学プラントでも過剰設備の状態になり、投資を回収することが難しくなっている。鉄道や道路などのインフラの整備もその継続には限界があるはずだ。

 

 投資に偏った成長は、中国の金融市場にも負荷をかけている。銀行は国有企業や地方政府に膨大な融資を行なっているが、こうした資産の健全性を疑う専門家も多い。過度な投資は不動産でバブルを起こしているとの指摘もある。

 

 リーマン・ショック後の内需展開による投資牽引経済は、中国の成長率を一時的に維持する役割を果たした。しかし、それによって中国経済が抱え込んだ歪みは相当に大きなものである。過剰供給、隠れた膨大な不良債権、不動産や株式のバブルなどである。

 

 

サービス産業成長のカギは本格的な改革と市場開放

 習近平時代になって、中国はニューノーマルという新しい路線を打ち出してきた。成長率は7%程度に低
下するだろうが、それによって安定的な成長を持続しようというのだ。

 

 7%の成長が維持できるかどうかは分からないが、ニューノーマルへの路線の転換は正しい方向である。製造業や輸出に偏った経済は高成長をもたらしたが、もはや持続不可能である。そこで投資やインフラなどの内需に転換したが、それも破綻してしまった。内需転換はよいとしても、それを過度な投資に依存するのではなく、サービス産業や消費をキーワードにした形にしようというのだ。

 

 サービス産業は、製造業のような急速な成長の原動力とはなりにくい。ただ、良質な雇用の吸収力ということであれば、サービス産業の持つ力は大きい。日本や欧米の多くの先進国では、製造業のシェアは2割以下であり、経済の大半はサービス産業である。だから成長率は低いが、国民は質の高い生活を維持することができる。中国もそちらの方向に舵を切ろうというのだ。

 

 ただ、本当に中国経済がニューノーマルにスムーズに転換できるのかは分からない。サービス産業が質の高い雇用を提供するためには、規制緩和や市場開放や社会制度の改革が必要であるからだ。金融・医療・保険・流通などの分野で、中国政府が本当に本格的な改革と市場開放ができるのか注目されるところだ。

 

 中国社会は今後急速に高齢化が進む。その意味では、医療・介護などの整備や年金の制度改革が必要となるが、それを進めることは容易ではないだろう。金融や保険などの分野でも外資系企業に厳しい規制をかけてきたが、それを緩和することは国内的に様々な難しい問題をはらんでいる。

 

 日本をはじめとしたアジアの国にとっては、仮に中国がニューノーマルへの移行をある程度スムーズに行ないえたとしても、それによって起きる需要の縮小や経済の変化の影響の大きさが気になるところだ。中国はあまりにも急激に大きくなりすぎた。それが軌道修正をするとなれば、その影響もそれなりの大きさになるだろう。

 

 

*『CEO社長情報』vol.20掲載