外国人観光客ブームは短期的な円安現象ではない

 海外から日本に来る外国人観光客が急速に増えている。安倍内閣が発足する前の2012年には850万人の訪日外国人だったのが、今年(15年)は1500万人を超えるような勢いである。政府は20年のオリンピック・パラリンピックに向けて、2000万人まで拡大すると目標を立てているが、この目標は簡単に達成できそうな勢いである。

 

 私たちの周りを見ても、観光客が増えていることがよくわかる。都心のデパートは中国人の観光客が需要を支えている。観光スポットでは、以前よりは明らかに外国人観光客が増えていることがわかる。少し前に沖縄に行ったら、3000人前後を収容できる中国から来るクルーズ船が話題になっていた。3000人の観光客が下船して買い物をする光景を想像してほしい。100台ほどのバスがきて、それぞれ30人乗せて、イオンモールやドン・キホーテに買い物に行くのだ。

 

 こうした外国人観光客を後押ししているのが、円安である。日本で売っているものは、外国人から見ればすべて安く見えるはずだ。円安だから買い物目当てに日本に来る人も多い。買い物の対象は電気製品やお土産だけではない。都内の高級不動産も海外からの購入がずいぶんあると聞いている。

 

 こうした訪日外国人ブームで、観光関連のビジネスは活況のようだ。航空会社は海外路線が好調であるという。大都市では新しいホテルのオープンや増改築が続く。さらに増え続ける旅行者を当て込んだ投資が続いている。デパートや大型専門店も、外国人観光客向けの対応を強化している。

 

 海外から来る旅行者は、これまでの日本経済ではそれほど重要な存在ではなかった。海外にはフランスやハワイのように、観光が大きな産業となっている国も少なくない。日本も今後は観光関連の分野にさらに投資を拡大して、大きな産業の柱に育てなくてはいけない。

 

 ただ、外国人観光客ブームは短期的な円安の現象とみてはいけない。今後も訪日客が増えるトレンドが続くと考えた方がよいだろう。訪日客の多くは中国などのアジアからの人たちだが、この地域では中間所得層が急速に拡大している。中国を例にとれば、この10年間にその経済規模であるGDPはおおよそ3倍になったが、中間所得層と富裕層の人口はおおよそ8倍になったという。経済成長のおかげで庶民の所得が増え、貧困層から中間所得層になった人が多いのだ。アジア全域では、この10年で8億人ほどの中間所得層の増加が見られる。

 

 これらの人は、かつては貧しかったが、いまは少し余裕ができて、海外旅行などに強い関心を持つようになってきたのだ。観光旅行だけではない。日本ブランドの商品が現地でよく売れるのは、彼らが品質を求め始めたからだ。品質も競争になれば、日本の商品に分がある。

 

 日本政府が20年までに訪日客を2000万人まで増やす計画を立てているということは、ビジネスや産業の視点から見ても注目しなくてはいけない。単純に観光客が増えるということだけでなく、様々な分野にビジネスが広がっていくのだ。

 

 

地方空港の有効活用が地方活性化の起爆剤になる

 先日、警備保障協会の広報誌で鼎談に参加した。そこで興味深い話を聞いた。20年までに警備保障業界のビジネスは急速に膨らんでいくというのだ。オリンピックやパラリンピックで多くの国から人がやってくるので警備保障需要も増えるということなのだろう。もちろん、オリンピックの時の一時的な需要だけではない。それに向けて建設工事が増えることなども、需要拡大要因だ。

 

 人手不足が深刻化するなかで、この需要増加にどう対応するのか。これはこの業界の大きな課題となる。そこで注目されるのは、防犯カメラなどの情報機器を積極的に導入して人手不足を補うということだ。そのためにも、設備投資が必要となる。キヤノンが海外の防犯カメラシステムの大手を買収したのも、こうした展開と無関係とは思われない。

 

 いま政府が取り組んでいる地方創生も、海外からの訪日客の増加をにらんだものが目につく。訪日客の多くは料金の安い格安航空(LCC)やチャーター便を利用する。こうした航空便は急速に増えており、これらが地方空港に乗り入れる。

 

 私の出身地の静岡空港は、開港当時は無駄な公共事業として批判された。羽田空港や中部国際空港に挟まれた静岡空港で利用者はいるのかと言われた。しかし、羽田空港に入れないチャーター便が中国などから静岡空港に飛ぶようになったという。静岡空港で降りた観光客は、バスを利用して関西に移動したり、あるいは富士山経由で東京に行くようだ。

 

 政府が目標としている2000万人という訪日客は、羽田空港や成田空港だけではさばききれない。また、政府としても、東京だけが元気になるオリンピックではなく、全国にその恩恵を広げたいと考えている。そこで地方空港の有効活用が大きな鍵となる。

 

 1年以上前、宮城県知事が興味深いことを言っていた。仙台空港は全国でももっとも早い段階からコンセッション方式のPFI(Private Finance Initiative)╱PPP(Public Private Partnership:公民連携)を目指していた。民間事業者に経営を委託する空港運営である。宮城県知事は、「関西国際空港を拠点として伸びているピーチのようなLCCの次の拠点として仙台空港を活用してほしい」とコメントしていた。

 

 こうした流れを作るためには、航空会社などが空港経営に関与できるコンセッション方式が好ましい。他の地域よりも有利にLCCの誘致をするためにも、仙台空港は積極的な民間参入に動いているようだ。こうした動きは他の空港でも出てきたようだ。20年に向けて、人の流れが大きく膨らむという見通しがその背景にあるのだ。

 

*公共施設等運営権制度。料金収入がある公共施設の運営事業(高速道路、空港、上下水道など)において、施設の所有権を公的機関に残したまま、その運営を民間事業者が行なう制度。

 

 

*『CEO社長情報』vol.19掲載