金利が上がればライバルは潰れる

 少し前にあるオーナー経営者の会で、次のような質問を投げかけたことがある。

 

「もし金利が上昇を始めたら皆さんのビジネスはどのような影響を受けますか?」という質問だ。

 

 あまり好ましくない、という答えが返ってくると思っていた。金利が上がれば債務の利子負担は大きくなる。住宅や自動車関連なら、ローンを利用した売れ行きが落ちることが予想される。株価や地価にも好ましくない影響が及ぶかもしれない。預貯金を多く持っている資産家ならいざ知らず、一般的に企業経営者にとって金利上昇はあまりうれしいことではないはずだ。

 

 ところが、何人かの経営者の方から「早く金利が上がるとよい」、という予想外の答えが返ってきた。

 

 どうしてかと尋ねると、「もし金利が上がればうちのライバルは潰れるだろう。そうなればうちには有利になる」、という理由だそうだ。

 

 笑って言っていたので、冗談めかした発言なのかもしれない。ただ、この発言は実に重要なポイントをついている。金利が上がり始めれば、業界の再編が加速化するかもしれないのだ。破綻までに至らなくても、吸収合併のケースは増えるのではないかと思う。

 

 10年以上、日本経済ではデフレ的な状況が続いている。景気が低迷し閉塞感に満ちてはいるが、ある意味では安定的な状況が続いた。低金利のもとで多くの企業が生き残り、すべての企業が苦しみを分かち合う状況が続いたのだ。

 

 重要なことは、これまで10 年以上続いたようなデフレ的状況がいつまで続くのかということだ。まだ当分同じような状況が続くのであれば、これまでと同じように行動すればよい。しかし、そろそろ時代が大きく変わろうとしていると考えるのであれば、経営者も考え方を変えなくてはいけない。

 

 

デフレからの脱却、2つの視点

 デフレ的な状況では家計も企業も消費や投資を控えてきた。家計の貯蓄は拡大してきた。企業も余裕があれば借金を返済し、無借金経営にしようとしてきた。それ以上に余裕がある企業は、将来のために貯蓄を積み上げてきた。家計貯蓄以上に企業貯蓄が増えている。

 

 この潤沢な貯蓄の多くは銀行を通じて国債の購入に回っている。政府は膨大な債務を抱えているが、潤沢な貯蓄のおかげで、日本の金利は歴史的な超低金利の状況である。景気は悪く金利は低い。貯蓄と政府の債務が膨れ上がっている。これがデフレ的状況である。

 

 この状況が本当にまだ何年も続くのかどうか? 経営者にとってこの点の見極めが重要となる。

 

 私には変化が起きているように見える。

 

 一つは財政問題である。日本の国債市場は安定しているが、欧州などの状況からも分かるように、国債の金利が上がり始めたらその動きは速いだろう。赤字を垂れ流し続ける財政運営を続ける政府を見ていると、いつまでも低金利が続くとは考えにくい。

 

 変化を起こす二つ目の要因は、震災と原発事故である。震災後、復興需要に支えられ、日本の景気は回復基調にある。物価もそれに合わせてマイナス圏からの脱出を探っている。一方の供給サイドは、原発停止による電力不足と、火力発電の利用によるエネルギーコストの増大で、コストや価格を引き上げる動きとなっている。

 

 こうした動きがすぐにデフレ的な安定を壊すとは限らないが、マクロ経済の環境は数年前とは大きく変わりつつある。経営者は、金利、物価、為替などの動きに気をつける必要がある。そして特に重要なことは、企業行動に大きな変化が見られることを認識する必要がある。ただ防御的に縮こまっているのではなく、素早い動きが求められるのだ。

 

 

積極的に海外に出ることが経済を活発化させる

 長引くデフレの中で、日本の大企業の動きも鈍かった。韓国勢にやられっぱなしのエレクトロニクス産業がその象徴である。ここに来て、日本のビックビジネスにも変化の兆しが見られる。

 

 多くの企業が海外への投資を加速化しているのも、そうした動きの一つだ。成熟化する国内市場と成長するアジア市場を見れば、日本の企業はもっと海外展開に積極的に取り組むべきであったことは明らかだ。

 

 しかし、なぜか日本の企業の動きは鈍かった。2005年頃まで超円安であったことが、企業を内向きにさせたのかもしれない。デフレの下で先が見えなかったことが、企業を消極的にさせた。

 

 しかし、いまや海外に積極的に出て行くことなくして、グローバル市場で生き残ることは難しい。このことを多くの企業が強く認識し始めた。大企業が積極的に海外に出て行くことを、空洞化として問題視する声もある。しかし、海外にも出て行けない企業は国内でもじり貧だろう。むしろ積極的に出て行く企業が多いほど、日本の国内の経済活動も活発化するはずだ。

 

 もちろん、すべての業種が海外に出て行けるというものでもない。企業規模で見ても、大企業は出て行けても、中小企業にとって、海外展開は簡単なことではない。すべての企業が出て行く必要はないだろう。ただ、日本の産業構造がグローバル化を鍵に大きく変化しつつあることを認識する必要はある。

 

 もう一つの注目すべき動きはM&Aである。縮小する国内市場では、合併や再編によって企業数を調整していく必要がある。そうした動きを自社に有利にするためには、他社に先んじてM&Aを断行することが有効である。日本でのM&Aのペースはまだまだ遅いが、今後はより多くの企業がM&Aを真剣に考えるようになるだろう。

 

 ここで言いたかったことは、経済のスピードが速まったということだ。

 

 デフレの中で縮こまって、じっと嵐が過ぎるのを待つような時代は終わった。経済環境が大きく変わる中で、いかに早く環境変化に対応するのかが問われる時代になったのだ。変化に対応できない企業は淘汰されるだろう。そうした淘汰も、日本が通らなければいけない構造変化の一つの側面である。

 

 経営者は、自らが持っている時間の感覚を調整しなくてはいけない。長く続いたデフレの中での眠りからそろそろ覚める時期であるのだ。

 

 

 

*『CEO社長情報』vol.7掲載