円安への流れはグローバル経済の流れとして捉える

 政権交代以来、日本経済を巡る市場環境は大きく変化した。民主党の野田総理が国会解散を表明してから、日経平均でみた株価は25%近く上昇し、円ドルレートも10円ほど円安方向に動いた。

 

 株安と円高という日本経済を覆っていた暗雲が少し晴れたことで、企業関係者のなかにも明るい気分になっている人も多いようだ。

 

 もっともまだ現実に政策が本格的に動き始めたわけではない。企業関係者としては、今後の動きに注目したいというところだろう。安倍内閣が公約通りの政策を実行することができれば、経済の潮の流れは大きく変化するかもしれない。

 

 ただ、いまのこの動きを日本経済の流れだけと捉えないほうがよい。グローバル経済の流れにも、微妙な変化が生まれ始めている。リスクオフからリスクオンへの微妙な変化である。

 

 リスクオンとリスクオフは、金融業界の人がよく使う言葉である。人々がリスクをとって高いリターンを求めて投資する気持ちが強いとき、リスクオンという。リスクのスイッチが入った状態というような意味だ。リスクオンの状態では、新興国に資金が流れ、株式市場や不動産市場などにも資金が潤沢に流れる。

 

 リーマン・ショックや欧州危機で、グローバル経済はリスクオンの状況からリスクオフの状況に急変してしまった。新興国から資金が逃げ出し、日本や米国の国債などに資金が逃げ込む。株式市場や不動産市場の価格は低迷する一方で、日本や米国などの長期国債の利回りは低くなっていく。

 

 グローバル経済がリスクオフの状態になったことは、日本経済には大きなダメージをもたらした。デフレをさらに深刻化するような事態が生まれたのだ。韓国の通貨ウォンが大きく下がったことは、新興国から資金が逃げ出した現象の一つとして見ることができる。おかげで、日本の自動車や家電メーカーは韓国企業に対して不利な競争を強いられることになった。

 

 リスクオフになることで、円レートは他の通貨に対して大幅に高くなってしまった。バブル崩壊後の長い調整を経て、日本の金融機関のバランスシート調整は終了している。リーマン・ショックで欧米の多くの金融機関が苦しむなかで、日本では金融危機は起きていない。そうしたこともあって、円に、それもリスクの少ないと見られる国債に資金が逃げ込んだ。これが深刻な円高を起こした。また、日本の国債利回り(長期金利)は、かつてないほど低い水準になってしまった。

 

 昨年の秋頃からこうした流れに変化が見えている。為替市場ではウォン高・円安の流れが顕著になってきている。ユーロやドルに対しても円安が進んでいる。日米ともに株価は好調であり、日本・米国・ドイツの長期国債の金利は少しずつ上昇する気配を見せている。世界全体がリスクオンの方向に動いているような感じがする。

 

 

デフレ脱却の好機だがチャンスとリスクは混在

 グローバル経済の下では、すべての国の経済が密接につながっている。日本だけが景気を刺激しても、海外の国が不調であれば、日本経済を元気にすることは難しい。多くの国の景気は連動する傾向をますます強くしている。

 

 そうした意味では、いまグローバル経済がリスクオフからリスクオンの方向に動き始めたことは、日本にとって長引くデフレからの脱却の絶好の機会が提供されていることになる。そうした時期に政権交代が起き、景気刺激に熱心な安倍政権が誕生したことは、偶然のこととはいえ、注目すべきタイミングではある。

 

 10年以上続いたデフレから脱却することは簡単なことではない。これまでも何度かデフレから脱却する機会がありそうで、なかなかうまくいかなかった。今回は失敗しないように、大胆な政策をとらなくてはいけない。

 

 ビジネス界の方々は、こうした動きを期待しているはずだ。ただ、景気が刺激され、経済が動き始めると、個々の企業にとってはチャンスとリスクの両方に直面するということを再確認する必要がある。チャンスとリスクは常に裏表の存在であるからだ。

 

 経済が動き始めれば、企業の投資も活発になってくるだろう。それは、国債購入に回っていた資金が投資に回るということを意味する。それで国債の金利が上昇を始めれば、負債比率の大きな企業にはマイナスの効果もある。

 

 多くの企業が積極的に動き始めれば、業界のなかでの再編の動きも激しくなるだろう。すべての企業が等しくチャンスを得られるわけではない。積極的に動いた企業と、変革を先送りしている企業の差が大きく出るかもしれない。

 

 為替レートが円安方向に動けば、輸出型の製造業にとっては大変に喜ばしいことだが、海外からの輸入を行なう国内の流通業や素材メーカーにとってはマイナス面も多いだろう。原発停止で火力発電に大きく依存する日本の電力のコストは、円安でさらに高くなるかもしれない。それが電力料金の引き上げにつながれば、電力を多く使う企業にとっては深刻なコストアップ要因となる。

 

 変化の大きな時期はいつも同じだ。チャンスとリスクが同時にやってくる。チャンスをうまく捉え、リスクにはまらないようにする。そのためには何が必用か。それを適切に判断する能力が企業に求められる。

 

 長く続くデフレの時代は、沈滞の時代でもある。景気が悪くて苦しい時代ではあるが、大きな変化がない時代でもあった。低金利で問題を先送りすることも可能であった。そうした「幸せな不況」にどっぷりと浸かってきた日本の企業は、ここで頭を切り替えることが必要だろう。

 

 

 

*『CEO社長情報』vol.6掲載