21 世紀は本当にアジアの時代?

 21世紀はアジアの時代、と言われてから久しい。この30年ほど、アジアは目覚ましいスピードで成長している。その代表が中国だろう。20年前には日本の8分の1程度の規模であったのが、いまや、日本を抜いて世界第2の規模の経済になっている。

 

 成長しているのは中国だけではない。シンガポールの一人あたりのGDPはすでに日本よりも高くなっている。韓国や台湾では、日本の主力企業を競争力で凌駕するような企業が出始めている。一時ほどの成長力はないとはいえ、ASEAN(東南アジア諸国連合)も成長を続けている。特に、民主化を進めて市場を開放しようという動きを見せているミャンマー、産業化のスピードを速めつつあるベトナムなど、後発国に注目が集まり始めている。

 

 このように21世紀がアジアの世紀であるという見方は揺るぎないように見える。少子高齢化による国内市場が縮小する日本にとって、アジアの国々との経済関係を深めていくことの重要性も増している。

 

 ただ、アジアの成長にも不安の動きがないわけではない。中国の成長率が鈍化し始めた。過熱する反日暴動の映像を見てもわかるように、中国社会の安定性に不安を持つ人も多いはずだ。もし中国の成長が本格的に鈍化するようなら、その影響は台湾や韓国など、中国経済と密接にかかわっている国に大きな影響を及ぼすだろう。日本にも深刻な影響が及ぶはずだ。

 

 順調に成長を続けているかに見える東南アジア諸国も、一時ほどの高い成長を続けているわけではない。まだ成長発展段階の初期であれば、海外からの投資を受け入れて高い成長を維持することができる。しかし、ある程度の所得水準に達してしまうと、国内にイノベーションを起こすような経済構造にシフトしていかないかぎり、成長を維持することは難しいように思える。

 

 

アジア開発銀行が示した「中所得国の罠」

 アジアは依然として、世界で最もダイナミックに成長を続ける地域である。ただ、さまざまな不安な要素が見えないわけでもない。いまの時点で、アジアの成長について、もう一度冷静になって整理する必要があるように思われる。
「中所得国の罠」という言い方がある。目覚ましい成長を遂げて中所得国にまでなったが、その後成長が鈍化して先進国になれない状態を指す。「貧困の罠」という概念から派生して出てきたものだろう。

 

 貧困の罠とは、なかなか貧困国から抜け出せない途上国の構造的な問題を指したものだ。途上国はさまざまな構造的な問題で貧困から抜け出せない。貧しいので教育投資ができない。子供の数が多い。栄養状況が悪い。伝染病が蔓延する。政治が混乱している。こういった要因が貧しさを深刻化させる。悪循環の中で貧困から抜け出せない状況を貧困の罠という。

 

 貧困の罠とは違うが、中所得国にも構造的な問題があるため、そこから抜け出して先進国になることが難しいように見える。こう考えるのが中所得国の罠という考え方である。ちなみに、先進国とは1人あたりのGDPが1万ドルを超えるような経済である。

 

 シンガポール、台湾、韓国のように、中所得国の状況から抜け出して先進国になった所もある。しかし、タイのように中所得国のまま足踏みしている所のほうが多い。抜群の成長率で中所得国の段階にまで来た中国が先進国になるのかどうかが注目されるところだ。

 

 アジア開発銀行は、そのレポートのなかで、アジアの国々が中所得国の罠にはまるかどうかで、将来のアジアの姿は大きく違うということを示した。このレポートが、中所得国の罠という概念を世の中に広める結果となった。

 

 

中国は先進国になりえるのか?

 中所得国の罠は、国によってその性格が異なる。かなり曖昧な概念である。個々の国について、それぞれ具体的に考察する必要がある。ここでは紙面の関係で中国のケースを取り上げる。

 

 これからの中国の経済をどう見るのかは、日本の企業にとっても重要であるはずだ。世の中にも悲観論と楽観論の両方が混在し、どの議論が正しいのか判断するのが非常に難しい。

 

 最近になってまた激しくなった中国国内の反日デモ、あるいは政権交代の時期に起きる激しい権力闘争などを見ていると、中国が成熟した先進国とはとても言えないことがよくわかる。共産党一党独裁という政治体制も、輸出を伸ばして量的拡大を続ける中所得国までの段階までの成長なら問題ないが、イノベーションを活性化させ人々の創意を生かす先進国型の成長に移行することを難しくさせている。

 

 中国がいま、大きな転換点に来ていることは確かだ。人口的にも一人っ子政策を30年以上続けてきた結果として、今後急速に少子高齢化が進む。生産労働人口の縮小が始まるのもすぐだ。輸出に過度に依存した成長も限界にきている。中所得国になったいま、労働コストなどで競争力を維持することは難しくなっている。

 

 中国のトップも、自国がこうした転換点に来ていることはよく承知している。リーマンショック後、必死になって内需産業の拡大に努めてきた。巨額の投資をつぎ込むことで成長を続けようともしてきた。これはある程度は成功したかに見えるが、いつまでも投資で内需を拡大させ続けることは難しい。消費の拡大が起きるかどうかが鍵となる。最近の中国の成長率の鈍化が顕著であるのは、こうした内需への転換が順調に進んでいないことを示している。

 

 これまで30年以上にわたって高い成長を続けてきた中国である。一時的には停滞しても、また成長経路に戻る。なんとなくそう考えてしまう人が多いだろう。ただ、中国が直面している構造的問題の難しさを考えると、そう楽観視もできない。

 

 中国が次の成長ステージに乗って、先進国の仲間入りをするのか。それとも中所得国のままで成長が鈍化していくのか。これから数年の中国の動向に注目する必要がある。それは日本の企業にとっても、経営判断をする上で重要な問題であるはずだ。

 

 

 

*『CEO社長情報』vol.4掲載