介護サービスに国籍はなし。

日本的サービスの長所を生かせば

歓迎されるのが証明できた。

デリカシーと組織対応の“日本式介護サービス”が大評判

櫻田 御社は、1980年創立時からの企業福利厚生施設の生活サービスと、2000年介護保険制度施行から開始した介護事業の2つの事業を核に展開されていますが、今回は介護事業、そのなかでも現在他社との差別化となっている海外展開を中心にお話をお聞きしたいと思っています。最近の動きはどんなところでしょうか。

 

椛澤 数日前、ハワイから帰ってきたところで、ハワイに介護施設を作る案件で動いているところなんです。

 

櫻田 ハワイは大変魅力的な地ですから、案件が成立すれば日本人からの反応は大きいでしょうね。その場合、集客対象に日本人も入るのですか?

 

椛澤 きっと入居希望者は多いでしょうが、いま当社が海外で展開する施設の集客対象は基本的にローカルの方々で、ハワイでも米国人がメインとなると思います。日本人の場合ビザの関係がありますからね。

 

櫻田 言われたように御社はすでに中国、タイでも事業展開されていますが、そちらでは親の介護を外部に委託するような状況に至っているのですか?

 

椛澤 日本でも歩んできた道ですが、経済成長に伴って女性の高学歴化と社会進出が加速し、核家族化が進むことによって介護を外部に委託したいというニーズは高まってくるんです。そうした動きは都市部から起こり、地方へも波及していきますね。


櫻田 御社が初めて進出されたタイは、もともと親日的ですよね。

 

椛澤 タイはそうですね。それから、アジアでは、近々台湾の某財閥グループと合弁展開を基本合意することになりますが、台湾も親日的です。

 

櫻田 このところ政治的に関係が悪化している中国にも進出されましたが、そちらはどうですか。

 

椛澤 中国はとても広い国で、地域によって事情が大きく異なるので、一概に語るのは難しいですね。でも、政治の世界と人間の付き合いは別で、北京の介護施設は、現在日中間の関係とは別に地域密着型施設のモデルの一つとして大きな反響を呼んでいます。
 中国人は「日本のものでも、いいものはいい」と冷静に判断してくれています。もともと日本のサービスは定評がありますから、大切な親の介護を頼むにあたっての基準が、事業者の国籍ではなく、サービスの質となるのは当然のことと思います。

 

 

〝きれい〟の尺度一つとっても日中の感覚の違い

リエイ・椛澤一 氏

櫻田 中国人も豊かになって、いいものを選ぶようになってきているんですね。中国の人に聞いたんですが、中国のスーパーでは、商品を選ぶのに疲れるんだそうです。本物かどうかを見分けないといけないから(笑)。日本ではそんな必要がないので、安心だそうです。ところで、なぜ介護ビジネスをアジアでも展開されようと考えたのですか。

 

椛澤 アジアでもその人口動態と経済成長から介護への需要が高まると考えたからです。実は、タイでは03年くらいから、日本人向けロングステイヤーを対象としたサービスアパートメント事業、日本向けのタイ人介護スタッフの養成を手がけていました。2000年前後までは、アジアに対して日本を軸にすることでビジネスが成り立つ環境があったと思いますが、その後、日本経済が低迷する一方で、中国が世界第二位の経済大国になるなどアジアにおける日本のプレゼンスが変わってしまい、その変化を見て、アジアのローカルの人たちを対象とする方向に転換したわけです。

 

櫻田 そういうことは、たとえば中国人スタッフが中国人を介護する、ということですよね。そうすると、現地スタッフの育成が重要になってきます。外国人の介護職への適性はどうですか。

 

椛澤 個人レベルでいえば、デリカシーは日本人より劣りますが、ホスピタリティー(おもてなしの心)ならタイ、フィリピンなどのほうが上かもしれません。
 しかし、問題はそれが個人プレーの域にとどまってしまうということ。スタッフが情報やノウハウを共有するという習慣がなく、教育もされてないんです。一方で、東日本大震災のときにも注目されたように、日本人の見事な連帯性は証明されています。日本の介護システムも組織プレーに原点があると思うんです。

 

櫻田 現地スタッフに、日本のよき習慣をどう落とし込むかですね。

 

椛澤 スタッフにも、それからお客様にも、現地の人たちにまず、日本流のよさを肌でわかってもらうのが一番と思っています。たとえば、日本と中国の〝きれい〟という感覚には大きなズレがあります。中国ではゴミが落ちていなければ〝きれい〟かもしれません。しかし、日本ではホコリ一つない状態が〝きれい〟です。ホコリがないほうが気持ちいいことは、体験すればわかるはずです。上海に12月正式オープンする約250床の介護施設では、内装にタイルカーペットを使い、浴室には浴槽も導入しようとしました。
 しかし後にもお話するつもりの北京での事業体と違って、上海での事業体は上海企業との50対50の合弁なので、中国サイドからは中国人は床に平気で食べカスを捨てるし、唾を吐く、また湯船につかる習慣がないからと反対されました。しかし、われわれ日本サイドが考えたのは、床を汚しちゃいけないことを知ってもらい、その結果きれいなカーペットでの生活を味わってもらいたい。湯船につかる気持ちよさを知って、日本並みの清潔な環境を入居する中国人高齢者にも味わってほしいということでした。手厚い接客で相手を心暖かくするのもそうですね。
 基本的には現地の価値観、風習、考え方は尊重しながら、快適感をもたらすためなら、摩擦を恐れずに進めるように努めています。われわれが中国に進出する一番の意味は、そうした日本のよきところを生かし日中を融合させた介護サービスを提供することではないかと思うんです。

 

 

北京事業体はパートナーなし100%出資の中国法人

FutureOne・櫻田浩 氏

櫻田 海外での介護事業は、どのように展開してこられたのですか。

 

椛澤 海外事業は03年からのタイバンコクが始まりですが、時期尚早の結果となり、先にお話ししたように集客対象をローカルにシフトした2年前から新たな法人にリセットし、提携したバンコク市内の病院内に入居施設を開業し、訪問介護サービスも立ち上げ、また中国においてはほぼ同時期に上海と北京それぞれの合弁会社設立の動きを開始しました。実は、北京については、北京大学医院との合弁で医院内に介護施設を開設する覚書まで取り交わしていたのですが、尖閣の問題が勃発し、計画は頓挫してしまいました。
 その後の紆余曲折を経て現地パートナーなしのリエイ100%出資の中国法人を作り、北京市海澱区に小規模多機能施設を作ることにしました。場所は北京市中心部の高所得層マンションゾーンでよかったものの、バリアフリー面、スケール面で目指すものに遠く及ばず、採算をとるのが困難とは認識しながらも、出店時期が大幅に遅れていたので、「論より証拠、まずやってみなきゃ」の思いで、人材のOJTの場、情報受発信の基地、日本式介護サービスのショールームと位置づけて中国初出店にこぎつけました。

 

櫻田 反応はどうでしたか。

 

椛澤 中国各地の反日デモ真っ只中の2012(平成24)年10月にオープンしたので、タイミングは最悪でした。当初は反応が鈍かったのですが、12月に認知症患者さんの入居が1組ありました。ご家族がとても困っていたんですね。初めは患者さんが暴れたりして大変だったんですが、1週間ほどで落ち着きました。中国では、そうした患者さんにいまの日本では問題となるような人権無視の対応が多く見られますが、当社施設では、人権を尊重した日本式の「見守り介護」を実践した結果、見舞いに来る家族が当社のサービスを高く評価してくれたようです。そこから入居者が増えていき、いまはフル入居状態です。結果、北京出店は海外展開のエポックとなりました。たとえれば、ビジネス発掘のボーリングさえままならないなかで、ほとんど期待せずにとりあえずボーリングしてみたら、思いもかけない手応えがあったような感じですね。

 

櫻田 中国では、いいパートナーがいないと、事業は成功しないと言われているようです。いろいろと大変だったのでは?

 

椛澤 独資になったのは成り行きでしたが、会社設立手続きから始まってすべてに大変でしたね。日本とは習慣も文化も違うし、コネクションがないと万事に不利。しかし、施設をオープンしてからはいろんな僥倖にも恵まれて行政との関わりができましたので、そうなれば独資ゆえの何事も決定できる利点が今後の展開に生きてくると思います。

 

 

一般市民向けの介護施設が北京の成功モデルに

櫻田 今後の見通しはどうですか。

 

椛澤 中国では、過剰開発抑制と高齢化問題解決をかけて上海市などに見られるように、開発面積の一定割合を福祉ゾーンに義務づける条例を定めています。日本の介護業者の中国進出は2パターンがあって、一つは開発事業者と組んで開発エリアの介護施設を運営するモデル、もう一つは弊社北京施設のような地域密着の一般市民対象の介護施設モデルです。後者は前者と違って採算が取りにくいと思われ外資参入がないに等しく、それで当社は行政から注目され、頻繁にマスコミにも取り上げられている状況になっています。
 余談ながら北京での不思議な体験をお話しすると、介護施設へのコンバージョンを目的にある老朽化したホテルを視察した際、閉ざされていた両開き扉が、私が入ろうとすると風もないのにきれいに開けられて招き入れられたのです。きっと中国が、北京が、私たちが来るのを待っていたのだと勝手に解釈しています(笑)。

 

櫻田 ところで御社の社内報で椛澤社長の体験記を拝読いたしました。波瀾万丈でさまざまなご苦労も経験されているのに、ご自分の信念を粘り強く貫かれている。

 

椛澤 私は見かけと違って短気で、諦めも結構早いところがあるんです。ただ、自分がやりたいことは不思議に続けてこられたから、周りからは粘り強く気長に見えるのかもしれませんね。

 

櫻田 信用していた人に裏切られたこともあったとか。ものすごいショックだったと思うんです。自暴自棄になったりしてもおかしくないと思うのですが。

 

椛澤 何かを始めれば、山谷があり、何かを得れば、何かを失う。何かを求めるときには出血も覚悟する。そんなことじゃないでしょうか。何か問題があったということは、相手方ばかりが悪いのではなく、自分にも非があったと思ったほうがいいし、しかし失敗や痛みは引きずらないで次の機会に生かせばいい、そんなふうに考えるようにしています。

 

櫻田 若いときから、そうした考えをお持ちだったのでしょうか。

 

椛澤 大学時代に音楽活動に熱中し、アルバイトで夜の世界を見たときに地位も名誉もあると思われる人たちの一面も見ることがあったし、父親の事業の成功と失敗の陰陽に周囲の人の変化も見たこともありますしね。その後に人と人のつながりで成り立つ現在の労務集約ビジネスを通しても、やはり清濁あっての世の中で、物事は単色でなくいろんな色の混ぜ合わせじゃないですかね。

 

リエイの介護事業は労働集約型+ホスピタリティー

櫻田 椛澤社長はいまのお仕事を天職と感じておられるのですか。

 

椛澤 天職とやりたい仕事は必ずしも一致しないのかもしれませんね。実は、介護事業を自分がやるなんて、思ってもいませんでした。私には社員を食べさせていく責任がありますから、(企業福利施設サービス事業に次ぐ)事業を立ち上げたいと考えただけなんです。リエイが福利施設サービスで培った人を世話する心を持つ会社であり、人的サービスゆえ労働集約型だから労務マネジメントにも長けているので、今後に有望なマーケットである介護事業は当社に向いていると判断したんです。

 

櫻田 御社のビジネスは社会貢献度の大きいビジネスですよね。

 

椛澤 企業として社会貢献をいかに考えるかとか、介護事業で社会貢献とか言われますが、そこから始めるより、事業として頑張れば頑張るほど、その結果が社会のお役立ちになっている、そういったスキームのほうがずっと楽ですね。そんな言い方をするのも私自身があまり構えた形が苦手なせいもありますけどね。

 

櫻田 介護という業種は社会性とビジネスとのバランスが難しいのではないのですか。

 

椛澤 社員には折々に「単にお客様に喜んでいただくなら、経費をかければよい。単に利益を多く得たいなら、経費をかけなければよい。ただし会社は存続できない。限られた資源で適正利益を得ながら感動を与えることができるのがプロだ」と言っています。
 しかし、当社はいわゆるオーナー企業です。会社は経営者を反映すると言われますように、私自身が脇の甘いところがあるせいか、うちの会社は利益管理に甘いところがあるんです。日頃、厳しさが足らない、“優しさと甘さをはき違えるな”などと厳しく言うのですが、この点は私自身の反省から始めなければならないですね(笑)。

 

櫻田 それにしても、椛澤社長はお若いですよね。秘訣をぜひ教えてください。

 

椛澤 結構楽観的なんです、どんな時でも何とかなると思えてしまうのもありがたいことですね。それと自分の生活リズムを変えず、同じ環境を保つようにしています。たとえば国内外どこの出張でも、宿泊ホテルの部屋ではいつも聞く音楽を流し、身の回りのものはホテルに用意されていても持参し、朝の冷水シャワーやストレッチ運動は欠かさないなど、いつものペースを崩さないようにしています。それから、気障りな言い方を許してもらえれば夢を持ち続けることでしょうかね。当社の事業ネットワークを世界にもっと広げていきたい。そう考えるとワクワクします。

 

櫻田 大きな夢をお持ちなんですね。お若い理由がわかった気がします。本日はいろいろと貴重なお話をしていただき、ありがとうございました。

 

 

*『CEO社長情報』vol.11掲載

 

|ゲストプロフィール

椛澤一(かばさわ・はじめ)

1947年生まれ。東京都出身。創業は72年。東京・銀座でレストランを3店舗経営。80年、現在の株式会社リエイの前身となるリエイ産商を創立。企業独身寮の生活サービス事業に進出し、88年現在の社名に変更。2000年コミュニケア24のブランドで介護事業進出。03年にはタイ進出。介護事業参入当初より、現地での介護人材育成やアジア展開に着手し、マスコミでも注目を浴びた。創業以来「食」をベースに、企業・法人福利厚生サービス事業、介護事業を国内外に展開、今期はM&Aで3社取得し、今期売上見込み110億円で進行中。

 

業 種●サービス業
設 立●1980年7月
資本金●1億350万円(授権資本金3億6000万円)
住 所● (本社)千葉県浦安市入船1-5-2 NBF新浦安タワー14F
事業所● 大阪支店、名古屋支店、札幌営業所、福岡営業所
海外拠点●タイ(バンコク)、中国(北京・上海)
電 話●047-355-8181
URL●http://www.riei.co.jp