成長の秘策ゴチになります

グループ企業67社、従業員約2万7000人を
マネジメントするキーワードは「心をつなぐ」

革新に努めた社長就任かあの10年

セイノー田口義隆

セイノーホールディングス・

田口義隆氏

白石 田口さんと初めてお会いしたのは20年くらい前。田口さんはまだ西濃運輸の常務でした。

 

田口 アメリカの子会社で社長を経験して、日本に帰ってきたばかりの頃でしたね。

 

白石 社長に就任されて、今年でちょうど10年。この間、次々に革新的なことをされましたよね。

 

田口 ホールディングス制とかね。保守的な業界なので目立ってしまうんですよ(笑)。企業買収が盛り上がってきた時期に、防衛策としての意味もあったんですけど。

 

白石 (2008年の)健保解散も驚きました。でも、すでに10年くらい前から田口さんはそんなことを話されていたなあと思ったんです。

 

田口 そうですね。そもそも、国の健保(政府管掌健康保険)がやるべきことを代行してきたのが企業健保なんです。こちらとしてもそのほうが国の保険料率を上回る運用益が出て、従業員にとっても保険料の支払いが少なくて済む。でも、徐々にその仕組みが破たんしてきてしまった。逆ザヤが出てきたうえに、経済状況がどんなに悪くなっても金利が5・5%固定というのは、国にとっても健全なことじゃない。それなら代行返上、健保を解散しようと思ったんです。

 

白石 理屈として正しくても、当時それはタブーに近かったと思うんです。西濃運輸さんほどの大手がそれをやってしまうのは、並大抵のことじゃないと思いましたよ。

 

田口 国にも、うちの従業員にとってもプラスにならないことでしたから。当時はかなり批判もありましたが、いまでは多くの健保がそれにならってますからね。

 

 

「わかりやすい言葉」で巨大組織を束ねる

田口 私は創業者ではないので、大前提は「守る」なんですよ。それでも変えなきゃいけないところは変える、という姿勢でやってきました。失敗するときというのは、創業者とは違うやり方を無理に通してしまうこと。創業者が生きている間はその存在でまとまるけれど、亡くなったあとは誰もついてきてくれなくなる。

 

ベネフィットワン

ベネフィット・ワン白石徳生氏

白石 でも何万人もの社員を創業者から引き継いだわけですよね。「守る」以外にどうやって人のマネジメントをされてきたんですか?

 

田口 言い方は悪いけれど、オペレーションはご褒美があればわかりやすいです。10の仕事を1時間でやったら1、30分でやったら2のご褒美がありますよ、と成果制でやるといい。その点、白石さんのところのようなサービス業は個々がその場で考えて対応しなくちゃいけないから難しいと思います。

 

白石 事務作業だったら、単純に効率性を上げればいいわけですからね。

 

田口 コールセンターで成果制を取り入れてしまったら大問題ですよ。件数を上げれば成果につながるわけだから、中途半端な対応で、すぐ切ろうとしてしまう。

 

白石 うちはコールセンターのオペレーターが500名近くいますが、そのスタッフたちのマネジメントが難しい。自由にさせると、1本の電話に30分以上かけたりするし、かといって「切り上げろ」とも言えない。

 

田口 そこは微妙なさじ加減が必要なところですよね。うちは最低限のことを共有するために「心をつなぐ」という言葉を考えたんです。「今日の電話対応はお客様と心をつなげた?」と聞く。営業乗務社員にも「行った先でちゃんと心をつなげてきた?」と聞く。物を届ける仕事ですけど、そこできちんと心をつなげたかどうかが次につながると思って、すごく考えました。

 

白石 「心をつなぐ」、いい言葉ですね。僕、田口さんが昔、おっしゃっていた「職場を元気にする」という言葉も覚えています。

 

田口 職場環境整備のためのキーワードですね。人は見るもの、聞くもの、触れるものからエネルギーをもらっていると考えたんです。手を上げて、大きな声で笑顔で「おはよう!」と言うのと、ぼそっと「おはよう」と言うのでは職場全体に与えるエネルギーがまるで違ってくる。そういうことや職場をきれいにすることは業務の能率のうえですごく重要だと思うんですよ。

 

白石 たしかに、汚い会社はミスも多いですよね。

 

田口 マネジメントにおいて、全社員にわかりやすい言葉でテーマを与えるのは重要ですよ。創業者は可視化することで社員に伝えていましたね。ドライバーに「お前の車はきれいだから幸せになる」と言っていた。一見、関連がないように見えるけれど、車をきれいにしていると傷をつけるのが嫌になるから、自然と運転が慎重になる。事故を起こさなければ、毎月お給料を持って家族のもとに帰れる。家族を幸せにできれば、お前も幸せだろう、と。

 

白石 思い出しましたけど、僕が小学生のとき、同級生のお父さんが西濃運輸のドライバーをしていて、その子がよく「うちのお父さんの会社は日本一だ」って自慢していたんですよ。

 

田口 創業者は経営者として従業員に「経済問題」と「将来性」と「誇り」を保証する、としたんです。そのためには「三つの宝」といって、「労使協調体制」「礼節中心主義」「福寿草精神」が何より重要と考え、会社の根本においてきました。

 

 

コモディティ化するなかで物流の差別化を図る

成長の秘策ゴチになります

白石 最後に聞きたいんですけど、今後の成長戦略はどのように考えていらっしゃるんですか?

 

田口 分野は3つくらいあるんですよ。一つは業際拡大。一度に取り扱える量を増やすための戦略です。もう一つは海外。特にアジアとのパートナー戦略を重視しています。最後はサービスの拡大。お客様の生活に密着したサービスをより充実させていきたいですね。

 

白石 まだまだ、やることがたくさんありますね。

 

田口 ありますよ。特にいま、消費者の目が厳しいでしょう。人口も減るし、消費はどうしても減る方向に向かうと思う。でもその分、資産の移動が増えると思うんです。所有はしない分、シェアをする。そこに移動が生まれる。他の商品と同様、物流もコモディティ化していくなかで、どう差別化を図るか。やらなければならないことが山積みですよ。

 

白石 なるほど。アイデアマンの田口さんの次の一手を楽しみにしています!

 

 

*『CEO社長情報』vol.08掲載

 

 

|ゲストプロフィール

田口 義隆(たぐち・よしたか)

1961年、岐阜県出身。 85年獨協大学経済学部卒業後、西濃運輸入社。同年西濃コスモスアメリカに出向、88年セイノーアメリカ社長。89年西濃運輸取締役総務部長兼グループ企画室長、91年常務。96年専務、98年代表取締役副社長を経て、2003年社長に就任。05年10月純粋持ち株会社に移行しセイノーホールディングス社長に就任。