株式会社ティーケーピー 河野貴輝

Guest Profile

河野 貴輝(かわの・たかてる)

1972年、大分県生まれ。慶應義塾大学商学部卒業後、伊藤忠商事株式会社為替証券部入社。日本オンライン証券(現・カブドットコム証券)、イーバンク銀行(現・楽天銀行)の立ち上げプロジェクトに参画し、ITと金融の融合事業を手がける。イーバンク銀行で取締役営業本部長等を歴任した後、2005年8月、株式会社ティーケーピーを創業。11年、TKPガーデンシティ品川(旧ホテルパシフィック東京1F宴会場)の運営を開始。ニューヨーク、上海にも進出を果す。現在、全国1,288室、93,438席(2014年3月現在)を運営する業界のリーディングカンパニーである。

特集100円のコーラを30円で仕入れ続け、高付加価値商品として1000円で売る方法

1.モノやサービスには満期日があるという視点が、ビジネスモデルの原点

「時間価値の減少(Time Decay)」という言葉をご存知ですか? 金融の世界のオプション取引などでよく使われる言葉です。オプション価格(プレミアム)とは権利行使価格と実際の取引価格の差異(本質的価値)と、満期日までの時間価値を合計したものです。オプション取引には権利行使日である満期日があって、満期日までの時間が長ければ、取引価格が変動する期待感から時間価値は高くなり、満期日がくると時間価値はゼロとなって、本質的価値だけが残るということになります。
 この満期日はモノにたとえれば、賞味期限と解釈できます。時間価値がなくなったモノは売り物にならず、廃棄するか、自分消費するしか手立てがありません。このモノやサービスには満期日があるという視点が、ティーケーピーのビジネスモデルの原点でした。

2.賞味期限前+付加価値= 利益の極大化

 100円のコーラを1000円で売るには付加価値の提供が必要です。100円で仕入れた缶コーラを、開けずに缶のまま120円で売れば20円の利益です。これは誰にでもできることで、特に際立つ付加価値のサービスはありません。100円で仕入れられた権利に利益を乗せただけです。
 一方でその缶コーラを開けて、しゃれたグラスに氷を入れて注げば、1本の缶コーラからおよそ3杯分がとれます。それにストローとコースターを用意し、レモンを添えれば、1杯350円で売ることができます。100円の缶コーラから3杯分とれるわけですから、すべて売り切れば1050円の売上げです。缶のまま売れば120円の売上げにしかならなかったものが、小分けにすることで1050円の売り上げに変わるのです。付加価値の提供方法によっては、100円の商品は10倍の付加価値を生むという考え方です。
 ティーケーピーは、この考え方に時間価値の減少という視点を加えてビジネスを展開しています。前述した100円のコーラを、たとえば30円で仕入れることができたら、利益はさらに大きくできるという発想です。賞味期限が近づいた缶コーラは、時間価値の減少とともに価格が安くなり、より安価となってディスカウントストアなどに流れます。ディスカウントストアではそれを特売商品に仕立て、安さを武器に消費者をあおります。安い方に流れるのが大衆消費の常。しかも、メーカーが責任を持って付けた賞味期限ですから、期限内であれば中身が傷むことは考えにくく、消費者にもお得感が芽生え、どんどん売れていくというわけです。
 そこで仕入れのタイミングを計れば、利益を極大化できるという視点と、小分け(時間)売りする付加価値サービスをパッケージにして参入したのが、ティーケーピーの貸会議室ビジネスです。

3.供給過剰だからこそ利益を上げ続けられるチャンスがある

 不動産物件での究極の時間価値の減少とは、取り壊しの決まった物件を指します。たとえばビルであれば、解体日がオプション取引の権利行使日、つまりは賞味期限です。しかし、取り壊しが決まっているからといっても、解体までにはまだ時間がある物件もあります。現実に、満期日は決まっているが、まだ半年以上かかるという物件は都会には少なからず存在しています。
 この満期日は確実に近づいているが、満期までには多少時間がある物件を使った貸会議室ビジネスがティーケーピーの原点でした。
 取り壊しが決まっていて、しかも満期日には出ていく約束をあらかじめ取り付けているから、大家さんには安心感があり、しかも大家さん側にとっては思わぬ臨時収入になるという感覚なので、ものすごく安く借りることが可能でした。
 一方こちらは、1ヵ月単位の家賃で借りたものを、時間に小分けして貸会議室としての付加価値を付けて貸し出しますから、相場より安く提供しても利益は十分に稼げます。つまり、仕入れ相場100円のコーラを30円で仕入れて、同業の付加価値相場よりも安い1杯250円で売ることができたというわけです。このことで自分で描いた付加価値創造にニーズがあることが確認できました。付加価値相場がコーラ1杯350円だとすれば、それを250円で提供できれば、確実にもっと売れるというニーズです。
 しかしながら、仕入れの安さだけに注力していくだけなら、ビジネスの発展や多角化はできません。仕入れ相場100円の缶コーラを30円で仕入れられなくなれば、そのビジネスモデルは崩壊するからです。不動産賃貸物件で借り手の優位性を確保するには、常にコストリーダーシップ戦略がとれる企業へと成長し続けなければなりません。そのためには、オーナーとの交渉力と、絶え間ない市場価格のキャッチアップ、そしてソフトを含む付加価値の充実を武器に、他が追随できないような圧倒的な差別化を図る必要があります。
 オーナーとの交渉により、満期日が近い物件を格安で借りられ、ビジネスを展開できたという経験から、仕入れの大切さを学びました。日本ではモノやインフラは過剰状態にあります。当然、不動産賃貸物件も供給過剰にあります。さらに不動産物件は時とともに時間価値の減少が起きます。このことに気づいた瞬間から、仕入れの見直しによる利益極大化が可能であるとの結論が出たのです。
 時間価値の減少による陳腐化、低迷はどの業界にも起こりえます。そしてそれがイノベーションを引き起こすきっかけを生み出します。
 人間が確実に年をとるように、すべての業界において、その規模の大小にかかわらず、時間価値の減少は引き起こされていきます。そして、それは新規参入のチャンスの扉が開くことを意味するのです。

TO PAGE TOP