売上げ横ばい、利益はトントンそんなときとるべき経営判断は?

 優れた経営者は「迅速な経営判断力を持ち、直ちに計画を推進する行動力を備えた人」と耳にすれば、異議を唱える人はいないはず。

 しかし、「実行は大胆に、計画は慎重に」行なわなければ、思わぬ落とし穴が潜んでいることがあります。

 今回は、売上げ微増、粗利減益という決算を迎えて、部門ごとの見直しに着手しようと意気込むナカタ金属ナカタ社長のもとを細貝(コマカイ)君が訪ねました。

 

細貝君(以下、コ) ナカタ社長、御社の9月決算の成績はどうですか? お預かりしている試算表からは売上げは横ばい、着地で利益がトントン、または少し赤字になるかもしれませんね。前期500万円の黒字着地でしたから、残念ながら減益は避けることができないでしょうね。

 

ナカタ社長(以下、ナ) ワタシもそう思う。なんとか売上げ維持はできそうだが、利益がついてこない。

 

 前期売上げの構成はどうなっていますか? 粗利益の低い卸売部門の売上構成が増えて、本業である製造部門が縮小し、全体の利益率が下がっているということはありませんか?

 

 社内の管理資料を見ると、製造部門の売上げが1500万円減、利益は1000万円減っている。卸売部門が1億円ほど売上げを伸ばしてくれたが、利益は200万円減だ。当社の卸売部門は在庫を持たず卸元から直接販売できる。いわゆるペーパーマージンの利点に妙味があった。しかし、冷静に考えてみると、卸売部門の人件費や移動費などの間接コストを考えると、部門単位ではひょっとしたら赤字部門なのかも。メーカーの原点に立ち返って生産効率を上げることに注力すべきなんだろうか?

 

 会社としての経営判断が必要なときですね。社長は、どちらに可能性があるとお考えですか?

 

 私はもともと製造現場育ちの人間だから、製造部門の改善はもっとできると考えている。しかし、最近は生産と営業の両部門のバランスをとってきたから、結局どっちつかずで経営判断が甘かったのかもしれない。

 

 そもそも、ヒト、モノ、カネという経営資源は中小企業には限られています。大企業のようには豊富ではありません。ですから、バランスをとりながら事業の方向性を決めていくことは、とても素晴らしいことだと思いますよ。

 

 

所要運転資金から、カネ余り、資金不足を判断する

 細貝君、ものづくり中小企業・小規模事業者試作開発等支援補助金申請も盛り上がったようだね。政府も製造業に期待する意向を表明しているようだから、わが社の今後の経営方針も〝製造部門の経営改善〟ということにしよう!わしが先導してものづくり企業に回帰させよう! 営業部隊は自社製品の販売に特化。そうすれば、利益率は上がる! 「これを実行する自信がある」そう支店長に伝え支援をお願いしてくれんかね。

 

 社長、「了解しました」と言いたいところですが、気になる点があります。卸売部門の現在の回収条件を教えていただけませんか。現金と手形の比率と手形のサイトは平均何ヵ月ですか?

 

 5割が末締め末払い。その他5割が60日手形だが。

 

 支払いのほうはどうですか?

 

 手形のサイトは平均120日だが。

 

 社長、いまのお話ですと、いきなり卸売部門を縮小して製造部門に特化するのは危険ですね。資金繰りを確認してみましょう。毎月の卸売部門の売上げが、前期9億1000万÷12=7600万円として上の計算式で所要運転資金というものが出ます。所要運転資金とは、回収と支払の収支に差が生じることに対して、いくら運転資金が必要なのかを表すものです。この計算式に当てはめると御社は1億6700万円のマイナス。つまり、1億6700万円〝カネ余り〟の状態で経営ができているということになるのです。もし、仮に卸売部門を一気に縮小した場合、この〝カネ余り〟状態はなくなります。

 

 ほぉ。

 

 卸売部門があることで発生する所要運転資金、つまり、余っている資金は製造部門の材料・在庫資金などに用立てられているはずです。しかし、製造部門の支払サイトは短いので運転資金が必要になります。

 

 ほぉ。

 

 卸売部門を縮小し製造部門に特化した場合、本来必要な運転資金を外部調達しなければなりません。すなわち銀行借り入れの準備が必要だということです。ご理解いただけましたか?

 

 売上げが増えるときには資金が必要なのはわかるが、縮小することで資金が足りなくなる。説明を聞いてよくわかったよ。冷や汗が出る思いだ。

 

 でも経営判断は間違ってはいないと思います。資金計画のお手伝いはしますので、計画を実行に移す前に割引枠の増額の審査を早めにしておきましょう。決算が確定する前に今年はトントンの見込みと稟議書に書きますから。でも、決算が赤字、そのあと急に資金繰りが悪化、そんなことになれば今度は私に本当の冷や汗が出ますから(笑)。

 

 

 

*『CEO社長情報』vol.12掲載